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課題発見から課題解決

初等教育における問題解決能力の育成意義と「課題発見」の重要性

問題解決能力とは

問題解決能力とは、子どもたちが自ら「課題」を見つけ、情報を集め、解決策を考え、主体的に行動する力です。現代社会は変化が激しく、正解が一つではない課題が多く存在します。そのため、知識の習得だけでなく、「自分で課題を発見し、解決する力」がますます重要になっています。

なぜ「課題発見」が大切なのか

課題発見は、問題解決プロセスの出発点です。自分ごととして「なぜ?」「どうして?」と疑問を持つことが、学びの深まりや主体的な行動につながります。しかし、子どもたちが最初から自分で課題を見つけるのは簡単ではありません。教師や大人の働きかけや、体験活動・比較・シミュレーション・ブレインストーミングなどの手法を活用して、課題発見を支援することが不可欠です。


探究的な学習における課題発見の具体的な方法

探究学習の入口である「課題設定」を充実させるために、以下のような多様なアプローチが有効です。

課題発見の方法説明・ポイント具体例
体験活動の対比体験を2つ以上比較し、違いや疑問を見つける学校の近くと遠くの公園を比べて「なぜ遊具の種類が違う?」
シミュレーション仮想の場面をイメージし、起こりうる問題を考える「シャッター商店街で新しく店を出すとしたら、どんな課題が?」
資料・データの比較複数の資料やグラフを比べて違和感や疑問を持つ「農業人口は減っているのに生産量は増えている。なぜ?」
ブレインストーミング思いつく限りの疑問や課題を自由に出し合う「学校生活で困っていることを付箋に書き出してみよう」
ウェビングマップテーマから連想する言葉や課題を広げていく「地域」を中心にして、関連する課題を放射状に広げる
KJ法的手法付箋などに書き出したアイデアをグループ化し、課題の全体像をつかむ「学校の課題」をカードに書き出し、分類してみる
ランキング興味や困りごとを順位づけし、上位のものから課題を選ぶ「学校の困りごとランキング」を作成し、1位から解決策を考える

このように、課題発見は「漠然とした疑問」から「深い問い」へと発展させていくプロセスです。最初は広く課題候補を出し、優先順位をつけて絞り込むことで、より本質的な課題にたどり着けます。


探究的な学習の導入事例(発達段階別・課題発見の工夫)

低学年(1~2年生)

事例名課題発見の工夫・プロセス解決への流れ
朝顔が咲かない理由探し毎日観察し、「昨日と何が違う?」「水やりした?」など体験の比較から疑問を発見。水やり・鉢の位置を変える→結果を記録→再度観察
給食の配膳の工夫「配膳が遅い」と感じた経験をもとに、「どうすれば早くなる?」と問いを立てる。順序カードで配膳手順を考え、実際に試してみる
おもちゃの動きの秘密風車やゴム動力のおもちゃを遊ぶ中で「なぜ動くの?」と疑問を持つ。分解して仕組みを調べ、発表する
学校探検マップ作り校内探検で「危ない場所はどこ?」「なぜ危ない?」と問いかけ、体験から課題を発見。写真や絵で記録し、安全マップを作成
なぜなぜボード「なぜ○○なの?」を繰り返し問い、表面的な疑問から深い課題へ発展。なぜなぜを5回繰り返し、原因を深掘り

中学年(3~4年生)

事例名課題発見の工夫・プロセス解決への流れ
昔と今の生活比較昔の道具と今の道具を実際に使い、「どこが違う?」「なぜ変わった?」と体験・資料比較から課題を発見。比較表やベン図で整理し、改善点を考える
校内省エネ作戦電気使用量の記録から「どこで無駄が多い?」とデータをもとに課題を発見。タイマー設置やルール作りを提案
地域商店調査店主インタビューや売れ筋商品の比較から「なぜ売れる?」「なぜ売れない?」と課題を見つける。仮説を立ててアンケートや観察で検証
プログラミング的思考迷路ロボットが失敗した場面で「どこで間違えた?」「なぜ動かない?」と失敗体験から課題を発見。手順や命令を修正し、再挑戦
Tチャートで意見整理「ゲーム時間を増やすべきか?」など、身近なテーマで賛成・反対の意見を出し合い、問いを深める。理由を整理し、討論や作文にまとめる

高学年(5~6年生)

事例名課題発見の工夫・プロセス解決への流れ
ゴミ削減プロジェクトゴミの分別記録から「なぜペットボトルが多い?」「どこで出ている?」とデータ分析で課題を発見。啓発活動やリユースボックス設置、効果を検証
防災マップ作成地域のハザードマップと現地調査を比較し、「どこが危険?」「なぜ危険?」と課題を発見。改善提案をまとめ、自治体や地域に発表
企業コラボ商品開発市場調査やアンケートから「どんな給食が求められている?」と課題を抽出。試作・改良を重ね、商品化を目指す
国際交流課題解決姉妹校との交流で「どんな悩みが共通?」「なぜ違いが生まれる?」と多様な視点から課題を発見。解決策を相互提案し、実践・評価
ロジックツリーで問題分析「地域のゴミ問題」などをロジックツリーで細分化し、複数の原因や課題を発見。枝分かれごとに解決策を検討
PMI表で新校則検討新しい校則導入の利点・欠点・懸念点をPMI表で多面的に検討し、課題を抽出。改善案をまとめて提案
仮説検証シート活用「植物の成長には音楽が影響するか」など、仮説を立てて実験計画を作り、問いを深める。実験・考察を通じて検証

児童が自ら課題を見つけ解決するプロセス支援

児童が課題を発見し、解決するプロセスを支援するには、以下の流れが重要です。

LINK:質の高い探究的な学びの実現(文部科学省,PDF形式)

段階支援のポイント
問題の認識体験活動や資料比較、対話を通じて「なぜ?」を引き出す。教師は問いを投げかけ、気付きを促す。
課題の明確化5W1Hやウェビングマップ、KJ法で疑問を整理し、優先順位をつけて「本当に解決したい課題」を絞り込む。
解決策の立案ブレインストーミングやシミュレーションで多様なアイデアを出し、現実性や効果を評価して選択する。
実行と検証計画を立てて実行し、結果を観察・記録。失敗も価値ある経験として振り返り、再挑戦を促す。
振り返り・共有成果や失敗の要因を分析し、ポートフォリオや発表で他者と共有。次の課題発見へとつなげる。

小学生でも使える思考ツール(発達段階別)

低学年向け

ツール名使用方法具体例
なぜなぜボード質問を5回繰り返し、核心に迫る「なぜ給食を残すの?」→「量が多いから」
順序カードイラスト付きカードを並べ替え、手順や流れを理解する朝の準備手順、植物の成長過程
感情チャート顔の表情シールを貼り、感情の原因を分析する「友達とケンカしたときの気持ち変化」

中学年向け

ツール名使用方法具体例
比較マトリックス縦軸・横軸に比較項目を設定し、特徴を整理動物の「移動方法」と「食事」を比較
Tチャート賛成/反対、長所/短所を2分割で整理「ゲーム時間を増やすべきか」の議論
タイムライン出来事を時系列に配置し、因果関係を可視化歴史的事象のつながり分析

高学年向け

ツール名使用方法具体例
ロジックツリー問題を枝分かれで細分化「地域のゴミ問題」→原因別に分解
PMI表Plus(利点)/Minus(欠点)/Interesting(懸念点)で検討新校則導入の影響分析
仮説検証シート「もし~なら」→「だから~する」→「結果は~」で実験計画を立案「植物の成長には音楽が影響するか」検証

専門用語の解説

用語解説
課題発見力自分で疑問や課題を見つけ出す力。探究学習の出発点となる。
探究的な学習児童自ら問いを立て、情報収集→分析→表現を行う学習形態
プログラミング的思考課題を分解し、手順を整理し、効率化する論理的思考(文部科学省定義)
KJ法付箋に書いたアイデアをグループ化し、問題構造を可視化する手法
ウェビングマップテーマから連想する言葉や課題を放射状に広げて整理する図
PMI表Plus(利点)/Minus(欠点)/Interesting(懸念点)で多面的に検討する思考ツール
5W1Hいつ(When)・どこで(Where)・誰が(Who)・何を(What)・なぜ(Why)・どのように(How)

教育現場での実践ポイント

課題発見を促す教師の働きかけ

  • 体験や比較、資料提示、対話を通じて「なぜ?」を引き出す
  • 「どこが不便?」「何が困る?」と問いかけ、気付きを促す
  • 表面的な問いを深い問いに変えるため、背景や他の視点を考えさせる
  • ウェビングマップやKJ法で疑問を可視化し、グループで共有・議論する
  • ランキングや投票で「本当に解決したい課題」を絞り込む

失敗を価値に変える評価

評価項目発達段階1発達段階3
課題設定力教師が設定した課題に取り組む独自の視点で新規課題を発見
情報分析単一情報の表面理解複数情報を統合し本質を抽出

家庭との連携

対話例目的
「今日一番の『なぜ?』は何だった?」子どもの気付きや疑問を引き出す
「それについてパパママはこう思うよ→あなたは?」多様な視点を共有する

まとめ

課題発見は、初等教育における問題解決能力育成の出発点です。教師や大人の働きかけ、体験活動や比較・シミュレーション・ブレインストーミングなど多様な手法を通じて、子どもたちが「自分ごと」として課題を見つけ出せる環境づくりが不可欠です。
課題発見から解決までのプロセスを繰り返し体験することで、主体的に学び、協働し、未来を切り拓く力が育ちます。
教育技術誌などでも強調されているように、教室から生まれる「なぜ?」こそが、探究の原動力です。